人事評価と人材育成
賃上げ予測値の捉え方
この背景には、コロナ後の業績回復を見越して賃上げ余力が高まったこと、人材確保への賃金面での対応が急務であったこと、そして個人消費が低迷し良いインフレへの期待も低下していたために賃上げによる需要喚起の必要性が広まったこと、などが挙げられます。労務行政研究所による賃上げ予測(2.75%)を1%近く上回り、実に30年ぶりの高水準となる見込みです。2.75%という水準も1997年以来26年ぶりの高水準でしたが、これを一気に超える動きとなったのです。
しかし、この予測値は、「最終的にこのあたりに落ち着くであろう」という目安であり、「これさえクリアしたら大丈夫」という基準ではありません。ここまでの賃上げ動向をみても、賃上げ率5%を大きく超える企業もあれば、1%前後の水準の企業、中には昇給をしなかった会社もあるはずです。これら全てを含めた平均値としての目安が予測値なのです。
したがって、個々の会社にとってこの予測値が、競争力ある賃金水準を維持するのに十分なものであるかどうかは別問題です。その会社にとっての適正な賃上げ率は企業ごとに大きく異なりますし、賃金水準が低い会社は高い賃上げ率を実現しなければ、人材流出につながるかもしれません。
そもそも平均賃金の低い会社は、同じ金額を引上げても賃上げ率は高めに出るものです。(例えば、平均5,000円の賃上げをする場合、平均賃金31万円の会社なら賃上げ率1.61%、平均賃金26万円の会社なら1.92%という具合です。)つまり、「賃金水準があまり高くない」と自認している会社は、世間並み以上の賃上げ率を継続してこそ、賃金水準は相対的に上昇し、競争力を備えることができるのです。
この30年で、企業規模間の賃金格差は年を追うごとに開いてきました。賃金ベースの高い大手企業が常に賃上げ率が高く、賃金ベースの低い中小企業ほど賃上げ率が低いということが続いてきたからです。
人材獲得競争が激化する時代には、賃金水準を段階的に引き上げていく準備が必要です。そうしなければ、明るい未来は描けません。いま、中長期的な事業計画と一体的に捉えた人事戦略や賃金戦略が求められています。
賃金水準が相対的に低い中小企業であるからこそ、世間並み以上の賃上げ率を目指し、戦略的に対処していくことが重要なのです。
転居を伴う人事異動を円滑に行うために
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